菅内閣人事 難局を越えられるのか(6月28日)-北海道新聞[社説]
菅直人首相は原発事故担当相を新設し、細野豪志首相補佐官を起用した。
先に決まった松本龍復興担当相とともに、東日本大震災と原発事故という「二つの危機」の対応を担う。
首相退陣の時期を探る動きが与党内にも広がり、政権基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。どこまで結果が出せるのか疑問は尽きない。だが新たな態勢をつくった以上、機能させることが首相に与えられた最後の責務だろう。
細野氏は福島第1原発事故以来、政府と東京電力でつくる対策統合本部の事務局長を務めてきた。その経験を生かし事故の早期収束に全力を挙げてもらいたい。
折から福島原発では原子炉冷却のため循環注水が始まったが、短時間で中断した。東電の工程表は大幅に遅れ、危機のただ中にある。
いま原発の内部がどうなっているか、肝心のことは政府も東電も確証を持って言える状況にない。
核燃料が原子炉を貫通し地中に浸透しているとの指摘も専門家から出ている。その通りならば、地下水を通して大規模な海洋汚染につながりかねない重大事であり、地中の遮蔽(しゃへい)壁の設置など対策は一刻を争う。
細野氏は東電を指導し現状を把握して内外に向かって発信すべきだ。それなしに不安は払拭(ふっしょく)できない。
松本復興相は復興構想会議の提言を着実に実行していかねばならない。そのために被災地の声を真摯(しんし)に受け止め、官僚組織を使いこなして住民生活の立て直しを急ぐべきだ。
復興と原発対応への担当閣僚が決まったが、内閣を束ねるのは菅首相である。遅くとも8月中には退陣すると受け取られ、多くを期待するのは無理があるだろう。だが国難を克服する道筋をつけねばならない。
首相が急ぐべきは震災対応の第2次補正予算案と、赤字国債の発行に必要な特例公債法案の成立である。早期退陣を求める野党側との協議の糸口はつかめていないが、ここは首相自ら打開に汗を流すべきだ。
自民党の浜田和幸参院議員を総務政務官に充てたのは野党の協力を得るための苦心の策だろうが、逆に自民党の反発を買って与野党協力をより難しくしたように見える。
首相が意欲を見せる再生エネルギー特措法案も延命策と見られては前には進まない。
太陽光や風力などの自然エネルギーの全量買い取りを電力会社に義務づけることは「脱原発」への一歩である。その意義を十分に説明し、国民の支持を取り付ける必要がある。
永田町や霞が関の論理にとらわれず、脱原発に向けた市民の声を自らの政治力に転化する-。首相に問われるのはそうした手腕である。